ケース9:云われなき非難

 

 

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 ええっ。私が露出狂ですって。部長、なんてことをおっしゃるんですか。証拠があるんですって。何ですかこれ。写真週刊誌じゃないですか。これがどうかしましたか。まあ、いやだ、どうして。どうしてこんなものが。確かにこれは私です。しかも、車には会社の名前が写っている。ええっ、なんてことでしょう。

部長、これにはわけがあるんです。私が会社の名前を辱めたですって。違います。私は、いえ、私が一番の被害者なんです。

 この写真を撮られたのは、先々週の金曜日の夕方です。私は隣のG県の美鈴商事へ会社の車で打ち合わせに行きました。でも、その帰り、高速で渋滞に遭ってしまって。金曜日の夕方でしょ。しかも連休の始まる前の日。只でさえ込んでいる高速で、事故か何かがあったらしくて、県境で全く動かなくなってしまったんです。

 私の潔白をご理解いただくために、恥を忍んで申し上げます。私、そのとき車の中でトイレに行きたくなったんです。でも、午後五時頃から、渋滞につかまって、一時間経っても車はまだ一キロも進まないんです。サービスエリアなんて、まだそのずっと先だし。

 我慢に我慢を重ねているうちに、六時半頃、もうどうしても我慢ができなくなったんです。何とかできないかと、半泣きになりながら、鞄の中や、あちこちを探していたとき、ダッシュボードの中に、携帯トイレがひとつ入っているのを発見ました。誰かがこういう事態を予想して、親切にもそこに入れておいてくれたのでしょうね。おそらく、いつもその車を使っている、営業の新田規子さんだと思います。

 ともかく、私はそれを袋から取り出しました。部長は多分ご存知ないでしょうが、水枕を小さくしたような形をしてるんです。水をいれる部分をあそこに押し当てて、用を足すと、中に入っているスポンジと薬品で、おしっこがすぐに固まってしまうんです。

 どうして、それをすぐに使わなかったっておっしゃるんですか。使おうとしましたよ。でも、難しいんです。男の人のようなわけにはいかないんです。渋滞っていっても、周りの車は少しずつ進んでいくし、あの辺りは路肩もないし。運転席を離れられなかったんです。助手席に乗っている人、後ろの席の人ならまだ少しは簡単です。でも、運転席ではとても難しいです。だから、写真に撮られたような、あんな恥ずかしい格好をしなくてはいかなかったんです。

 どうして、そんなに難しいのかって、そんなことまで話さなくてはいけないんですか。いいですか、部長。その日、スカートならまだ問題はなかったのです。でも、私はスラックスを履いていたんです。そして、その下にパンストも履いていたんです。もちろん、その下にはもちろんショーツも履いていました。私は、シートベルトを外して、運転席に座ったままズボンのベルトを外して、ズボンと、パンストと、ショーツを膝の上まで下げて、携帯トイレをあそこの部分にあてがったんです。でも、運転席ってお尻が沈んだ状態なんです。太股が、お尻より高いです。そのまま出したら、おしっこは袋に入らないで、全て股の間からシートに流れ出してしまうって気がついたんです。それで私はどうしても、運転席の上にしゃがまなければならなかったのです。

 しゃがめばいいじゃないか。どうせ、車は渋滞で少しずつしか動かないんだから、そうおっしゃるのですね。どうして、そのとき下半身を丸出しにする必要があったのかですって。お願いですから「丸出し」なんて、そんな恥ずかしい言葉を使わないでください。私も、ズボンや下着を膝まで下ろしたまま、足を引き上げて、運転席に上がろうとしました。でも、ハンドルがあるので、ズボンやパンストを膝に絡めたままでは、両足が一度に抜けないんです。両足から、ズボンとパンストとそれから、下着も抜き取り、それでやっと運転席のシートの上にしゃがむことができたんです。そして、やっと用を足すことができたんです。

どうして、こんなことまで話さなくてはいけないんですか。お願いですから、もう堪忍してください。

 写真ですか。ちょうど用を足し終わってまだシートの上にしゃがんだままでいるとき、観光バスが横を通ったのを覚えています。ピカッと何かが光ったので、わたしははっとして窓の外を見ました。おそらく、そのバスの窓から、誰かが私の写真を撮ったんだと思います。そして、写真週刊誌に持ち込んだんだと思います。

「高速道路に現れたお尻丸出し露出狂の女性」

ですって。とんでもない話です。私だって必死だったんです。しかし、こんな会社の名前の入ったままで載せるなんて。何て非常識な雑誌なんでしょう。

部長は会社の恥っておっしゃいますが、この写真、目のところに線が入っているけど、これが私だってこと、知っている人にはすぐに分かってしまいます。あそこの毛だって少し写っているんですよ。もう身の破滅です。お嫁にもいけないかもしれません。私が一番の被害者なんです。

 車を降りて、木の陰でも、藪の中でもできるだろう、ですって。部長、何をおっしゃいます。男の人とは違うんです。私はまだ嫁入り前の女性なんです。そんな、そんな所で下着を下ろすなんて、死んでもできません。

 反省してのるかっておっしゃるのですね。会社にご迷惑をおかけしたことはお詫びします。でも、ああするより、仕方がなかったんです。部長、どうして、私の下半身をそんなにジロジロご覧になるんですか。もう堪忍してください。

申し訳ありません。今日は、気分がすぐれません。早退させていただきます。失礼いたします。

 

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