ケース12:立ったままで

 

 

 一晩中、都会で遊び歩いたオレと浩司が、朝早く車で帰る途中のことだった。オレの運転する車は、高速道路を降りて、オレたちの住む町に向かう道路を走っていた。早朝のせいで、まだ車の数は少ない。インターチェンジから町にかけての辺りは、最近随分と開けてきた。道路の両側には、新しいオフィスビルが次々と立ち始めている。広い道路の両側の街路樹は黄色に色づき、歩道と車道の境には枯葉が積もっていた。

 のんびり走っているオレたちの横を、銀色のフォードKAが結構なスピードで追い越していく。追い越される時、横目でチラと眺めると、その車の運転者は髪をボブにした若い女性だった。しばらく行くと、フォードは、突然指示器も出さずに道の左側に寄って停まった。そこはちょうど建築中のビルの前である。車から、黒いブレザーを着た若い女が慌てた様子で降りてくるのが見えた。そして、その女は、身体を必要以上に折り曲げ、黒いハンドバッグを片手に持ち、もう片手を股に当てていた。

 オレだけでなく、あらゆることに対し、嗅覚の鋭い浩司もそれを見逃さなかった。オレと浩司は無言で顔を見合わせる。彼の目からは「面白いものが見れるかも」という期待がはっきり読み取れた。オレは、フォードKAを追い越し、三十メートルくらい先に車を停め、バックミラーで、その若い女を観察した。

 女はフェンスの二十センチくらいの隙間から、工事現場へ入っていった。オレたちは車を降り、できるだけ足音を立てないように、女が消えたフェンスの隙間へと向う。フェンスの中の建築現場は、ビルの骨組みが出来上がっているだけ。床からは打ちっぱなしのコンクリートの柱が立っていた。早朝のことで、まだその日の工事は始まっていないらしく、人気はない。女は、無愛想に立ち並ぶ灰色のコンクリート柱のうちの一本の影へ消えていった。オレと浩司は無言でフェンスの隙間に身を滑らせ、中に入り、足音を立てないように細心の注意を払いながら女の後を追う。

 表から三本目の柱の向こうに女の服がちらりと見えた。オレと浩司は左右に別れ、柱の両側から近づいていく。女の全身が視界に入った。女はそこにしゃがんでいた。白いパンティと黒いストッキングが膝の辺りまで下げられている。薄暗い中に、捲り上げられたスカートの下の、女の真っ白な尻が浮き上がって見えた。女はオレたちに気付いていない。

 お互い顔を見合わせることもなく、オレと浩司は同時に女へ向って突進した。このあたりが、長年の遊び仲間の阿吽の呼吸なのだ。

「キャーッ」

女は顔を上げて、振り返りながら叫んだ。女の恐怖にかられた顔はなかなか見ものだった。その顔は「リング」の映画の、呪いのビデオを見て死んだ女の顔に似ていた。

オレたちは女の二の腕を両側から掴み、女を立たせた。下着を引き上げる間髪も与えなかったので、パンティは膝頭の少し上に留まったままである。女は黒いブレザーの下に、黒地に青い花模様の浮き出たワンピースを着ていた。立たせると同時にワンピースの裾が女の尻を隠した。年は二十五歳くらいだろうか。下膨れだが、色白で肌理の細かい肌をしていた。恐怖で引きつった表情を割り引いても、なかなか可愛い顔だと思った。

 女の足元はまだ濡れていない。と言うことは、女は下着をおろして、スカートを捲り上げたものの、まだ用を足していないのだ。

「ここで、何をしてやがる。」

ドスを効かせた声で浩司が切り出した。

「オレたちは警備の者だ。最近、この現場で資材の盗難が起きてんで、昨夜からずっと張ってたんだが。お前、その犯人だな。」

両腕をオレたちにしっかり掴まれた女に向って、浩司は口から出まかせを言う。

「いえ、そんなんじゃありません。わたし、泥棒なんかじゃありません。」

女は、両腕をオレたちから振り払おうと足掻きながら言った。

「じゃあ、お前は、何しにここへ入って来たんだ。『関係者以外立入禁止』と表に書いてあっただろうが。」

黒い皮ジャンにサングラスの浩司が言う。「警備の者」とはとっさによく考えたものだ。女は腕を振り解くのを諦め、少しの沈黙の後、言った。

「す、すいません。トイレに行きたかったもので。それで・・・」

彼女の恐怖の表情に、今回は羞恥の表情が混じる。下着を下ろして、尻を出していたのだから、明白なことなのだが。

「なにっ、じゃあ、お前は人様の土地で小便をしようとしたのか。」

浩司がゆっくりと言う。

「すいません。我慢できなかったもので。」

女は、オレの方が物分りが良さそうだと思ったのだろうか、オレの方に顔を向け、哀願するような表情でそう答える。

「いずれにせよ、家宅不法侵入だ。これから一緒に警察へ行ってもらう。」

浩司が言う。

「そうだ、誰も自分から泥棒だとは言わないよな。」

オレも、調子を合わせる。

オレたちは彼女を柱の影から連れ出し、表通りのほうへ数歩引っ張っていった。女はストッキングとパンティを膝に絡めたまま、足を踏ん張って抵抗する。

「いやです。堪忍してください。本当に、おしっこをしたかっただけなんです。」

浩司は足を止める。ちょっと芝居がかった言い方で、浩司が言う。

「そうか。どうしてもそう言い張るんだな。じゃあ、その証拠を見せてもらおうか。」

「何ですか、その証拠って。」

女の声はもうかすれている。

「ここで、この場で、オレたちも目の前で小便をしていけ。」

「姉ちゃん、どうぜ、そのつもりでパンツも下ろしたんだろ。我慢するのは身体に悪いぜ。」

オレも期待に胸を膨らませながらそう付け加える。

女が叫ぶ。

「いやです。そんなこと出来ません。」

「それじゃ警察へいくか。」

浩司が怒鳴る。

「いやです。」

と女。

「馬鹿野郎、おい、警察だ。」

と浩司。

「よし、一一〇番だ」

これはオレ。同時にジャケットのポケットから携帯を出す。そのとき、女が叫んだ。

「分かりました、おしっこをします。」

浩司は、間髪を入れず、空いている方の手で、女のワンピースの裾を持ち上げる。オレも反対側から協力する。女のヘソから下が丸出しになった。

「ひえーっ。いやーっ。やめて。やめてください。」

女は泣き声になった。ぽっちゃりとした尻、鳥肌が立っているものの、白い綺麗な肌だ。陰毛は意外に濃く、カットの深い下着なら確実にはみ出してしまうなと、オレは思った。

「ワンピースが濡れないように、協力してやってるんだよ。」

浩司がそう言う。

「お願いです。おしっこはします。手を離してください。」

オレたちは顔を一瞬見合わせた後、女の腕を解放した。女はしゃがもうとした。

「誰がしゃがんでいいと言った。立ったままやれ。」

浩司がもう一度女の腕を掴む。

「分かりました。このままやります。だから腕を離してください。」

女は泣きながら言う。彼女は、ワンピースの裾を両手で持ち上げ、閉じた足を幾分曲げ、身体を四十五度前傾したまま、立ち尽くしていた。顔は胸に埋めるようにしている。後ろから覗き込むと、淡い茶色の肛門が見える。なかなか可愛い肛門だ。

女は一分以上そのように立ち尽くしていたが、突然、ブルブルっと下半身を振るわせた。一筋の雫が女の太ももの内側を通って膝のパンティに吸い込まれていった。

「おしっこ、しました。これで、許してもらえますか。」

女は顔を上げないで、震える声で言った。

「お姉さん。途中で止めるのは身体に悪いぜ。」

「出し切っちゃいなよ。」

オレたちが言う。そのとき、女の尻が大きく上下に震えた。その後、アルペンスキーの滑降のようなスタイルで、女は固まった。

「ひーっ。」

女は声高く叫ぶと、中腰の姿勢のまま、股の間から大量の小便を排出した。小便はもう膝の下着では止められなくて、足を伝って黒いローヒールに入り、再び靴から溢れ、コンクリートの床に広がっていった。女の小便からはかすかにコーヒーの匂いがした。

 小便が終わると、尻を拭きもせず、女はパンティとパンストを一緒にずり上げた。慌てていたので、完全には上がらなくて、尻の下にまとわりついた形になった。しかし、それにも構わず、女はスカートの裾を下ろすと、夢遊病のような足取りで、よろよろと道路の方へ向って歩き出した。そして、フェンスの隙間から歩道に出て行った。枯葉を踏むカサカサとした音がしたあと、銀色のフォードがタイヤを軋ませて走り去るのが聞こえた。

浩司が言った。

「朝から、なかなかの 見物だったな。」

オレは浩司に向って言った。

「これって、早起きした『三文の得』かい。」

 

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