初めてのデート

 

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 僕は北陸のある大学に進学した。大学では水球部に入った。高校時代から水球をやっていた僕は、県の選抜チームに選ばれたこともある。もっとも、当時、OO県で水球部のある高校はたった三校だけ。県代表に選ばれることは、はっきり言って全然難しくない。水球には深いプールが必要で、普通のプールでは練習さえできない。そして、そんな施設があるのは、ほんの一部の学校だけだったのだ。

 大学には温水プールも深いプールもなかった。それで、水球部は市営プールを借りて練習を行っていた。僕らが水球の練習をしている横で、同じ大学の水泳部も練習していた。その水泳部の中に、僕と同じ一年生で気になる娘がいた。

高梨恭子。関東のXX県出身。自由形の選手。彼女の記録は、関東や関西ではそれほどのレベルではないが。北陸の田舎大学に来れば、エース級のタイムだった。事実、いきなり六月の地域インカレの、二百メートルと四百メートルで入賞。四百メートルリレーとメドレーリレーではチームのアンカーも務めた。

彼女は水泳部員には珍しく髪の毛が長く、身長は百六十五センチくらい。スリムだが、薄い競泳用水着の上から、小ぶりながら丸く締まった乳房が見て取れた。そして、いつも笑っていた。ちょっとお高く留まっているようで、それでいてコケティッシュな感じのする、不思議な娘だった。

また、僕は彼女の歯切れの良い標準語にも憧れた。僕は関西の出身、周りの学生も北陸地方出身者が多く、そんな中で彼女の「東京アクセント」は目立っていた。

春のインカレの後、水泳部、水球部合同で、打ち上げのコンパがあった。僕はその席で、彼女に「接近」を試みた。

「関西弁の男って、これまで周りにいなかったのよ。変に新鮮なのよね。」

結構酔っていたが、彼女はそう言った。僕は恭子に少なくとも嫌われてはいないという確信を持った。

 

 七月、夏休みに入る直前の日曜日、初めて彼女をデートに誘った。行き先は辰巳山。辰巳山は街の後ろに控える、なだらかな丘だ。昔そこにあったゴルフ場が倒産した後、それを市が買い取り、芝生の公園とフィールドアスレチックの施設になっていた。

 日曜日の午前十時、中央公園の門の前で恭子と待ち合わせる。天気の良い日。木漏れ日がキラキラと輝いていた。

「こら、淡木、ぼやっと立ってるんじゃない。」

突然、後ろから恭子の声が聞こえた。彼女は公園を横切って、中からやって来たのだった。彼女の第一声は、水球部の橋口コーチの真似だ。

僕は彼女の姿を見て目を見張った。彼女の黄色いワンピースが驚くほど短かったからだ。良く考えると、僕は彼女の水着姿か、トレーニングウェア姿しか、まだ見たことがなかった。ワンピースの裾からは、彼女のよく発達した太股が、ほぼ上から下まで露出している。彼女は素足にワンピースと同じ色のサンダルを履いていた。恭子は、僕の驚いた顔を見てケラケラと笑っている。

 僕たちは「辰巳山公園」行きのバスに乗った。隣に座った恭子の太股にばかり目が行く。いつも水着の下から出ている彼女の足を見ていても、全然平気なのに、それがスカートの下から出ていると、とたんにエロチックに見えてくる。

「水球っておかしなスポーツね。」

恭子が言った。

「どうして。」

「最初にボールが投げ込まれ、それに向かって選手が両方から泳いでいくでしょ。まるで池に投げ込まれた餌に殺到している鯉みたいじゃん。」

恭子はまたケラケラと笑った。

 

バスは辰巳山公園に到着した。波を打った広い芝生が広がっていて、一番高いところに昔のクラブハウス、今の管理棟と休憩所がある。芝生の公園あちこちに、フィールドアスレチックの設備が作られている。

しばらく行くと、「モンキーバー」があった。はしごを横に掛けたような遊具で、動物園のサルがやるように、そこにぶら下がりながら端から端まで進んでいくのだ。

 いきなり恭子がその「モンキーバー」に飛びついた。短いワンピースがずり上がり、白地に黄色い水玉模様のついたパンティーが完全に露出した。もし前から見たならば、確実にパンティーの上のヘソまでが見えていただろう。

恭子は、僕を挑発しているのか、それとも無邪気なのか。そんなことに全然構う様子がない。パンティーに包まれたお尻を左右に振いながら前へ進んでいく。十メートルほどの「モンキーバー」を渡り切った後、彼女は僕のほうを見てガッツポーズをした。その瞬間、完全に彼女の「虜」になってしまった自分を感じた。

 

そんなことをして遊んでいるうちに、時刻は正午を回った。僕は何と、昼飯に自分で作ったサンドイッチを作って持ってきていたのだ。僕がそれを明かすと、

「良い心掛けね。これからの男は、それくらい気が回らないとダメよ。」

と恭子が言った。

「自販機がクラブハウスにあったし、そこで何か飲む物買おう。」

僕等はクラブハウスに向かって歩き出した。そのうち、僕は恭子が、時々下腹に手を当てているのを気付いた。その彼女の下腹から、ギュルギュルという小さな音も聞こえた。恭子が突然、

「うっ。」

と言って立ち止まった。

「どうしたん。」

「お腹が痛い。」

僕は、わざと目的語を言わずに尋ねた。

「・・・したいの。」

「うん。」

これ、シャレなのだろうか。

「そんな短いワンピース着てるし、お腹が冷えたんとちゃう。」

「うるせえ。余計なお世話よ。さっきから人のパンティーを見て、鼻の下を伸ばしてたくせに・・・うっ、マジにやばい。」

「クラブハウスのトイレに行っといでよ。」

「そうする。淡木君、一緒に来なくていいからね。ここで待ってて。」

彼女はそう言うと、両手で腹を押さえながら、クラブハウスへ行く坂を上り始めた。前かがみになっている彼女のワンピースの裾から、白地に黄色の水玉模様の下着が見え隠れしている。

 そのうち、恭子は坂の途中で立ち止まった。そしてブルッと身体を振るわせた。只ならぬ事態が彼女を襲ったのは明らかだった。彼女は腹を押さえていた両手を今度は尻に当てた。離れているので音は聞こえないが、おそらく「ブリッ」とか「ブチュッ」とか音もしたのだと思う。下着の尻の部分がかすかに茶色に染まるのが見えた。

彼女は行き先を九十度変更し、両手で尻を押さえたまま、一番近くの木とその根元にある繁みに全速力で走り込んだ。しばらくして恭子が、歩いてクラブハウスに向うのが見えた。僕は、その様子を、一部始終を下から見ていた。

二十分ほどして、恭子がクラブハウスから出て、坂を下りてくるのが見えた。いつも元気印の恭子が、この時初めて少しシュンとしていた。彼女はおでこを僕のTシャツの胸に付けて言った。

「ヘヘヘ、もらしちゃった。」

「パンツは?」

「慰めの言葉も言わないで、いきなり『パンツは?』、だもんね。このスケベ男。捨てたわよ。欲しけりゃあの木の下にあるわよ。」

「お弁当食べる?」

「もう帰る。こんな格好じゃ遊べないし。」

僕たちはバス乗り場に向かった。

 

バスの中では幼稚園の団体と一緒だった。子供たちが座席を占領しているので、僕たちは立っていた。恭子は、つり革を持っていなかった。ノーパンの彼女は、手を少しでも上げると、その分短いワンピースの裾が少し持ち上がることを気にしていたのだろう。恭子は僕の腕を持っていた。

辰巳山と市内を結ぶ道は、ジグザグの坂道だ。そのカーブのひとつでバスが予想外に大きく揺れた。僕達ふたりは一瞬バランスを崩した。恭子は僕の腕から手を離し、足を開いて踏ん張り、本能的に両手でつり革に摑まった。つまり、先ほどのモンキーバーと同じ体勢になったのだ。恭子が気付いたときにはもう遅かった。幼稚園児が騒ぎ出したのだ。

「この姉ちゃんパンツはいとらんちゃ。」

「股の毛が見えたっちゃ。」

僕は園児に向かって叫んだ。

「お前等うるさい。黙れ。」

それを聞きつけた女の先生が園児達を制した。

「バスの中では静かにしなさい。」

バスの中は静まり返った。幼稚園児達は僕達の降りる、ひとつ手前のバス停で降りて行った。

僕らは中央公園でバスを降りた。恭子は数メートル離れた「中央公園」という看板の掛かった石柱に頭を付けた。彼女は泣いていた。僕は、彼女の肩に手を乗せて言った。

「あそこにスーパーがあるし、パンツ買おうや。」

「ゴチャゴチャうるせえんだ、淡木、お前は。」

そう言って彼女は泣き続けた。

 

スーパーで下着を買った後、恭子と僕は、僕のアパートへ行き、そこでセックスをした。

 彼女はその事件の後も快活に振舞ってはいたが、練習のときなど、時々翳のある表情を見せるようになった。彼女との関係は四年生になるまで続いたが、卒業の直前、結局彼女の方から別れたいと言ってきた。僕はまだまだ未練があったが、彼女の言うことを聞くしかなかった。卒業後、彼女は関東へ、僕は関西に戻り、仕事に就き、互いに家庭を持った。

 ひょっとして、恭子は、

「最初のデートのときにお漏らしをした。」

そんなハンディを負いながら、一生僕と付き合うのがいやだったのかも知れない。

 

***

 

ここで、恭子にも言わなかった秘密をひとつ。初めてのデートの日、僕は夕方、恭子と別れた後、バイクで辰巳山公園に戻った。そして、木の下に脱ぎ捨ててあった彼女の汚れたパンティーをポリ袋に入れて回収したのだった。家に帰りそれを洗った。そして、かなりの年数、それを大切に保管していたのだった。

 

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