不法占有者

 

 

森恭子は、林に囲まれた屋敷の前に青いプリウスを停めた。国道から三十メートルほどの砂利を敷いた私道を入るとそこに玄関がある。板張りに白いペンキの塗られたその家は、二流観光地のペンションを思い出させ、恭子の目から見ると、趣味の良い家とは言い難かった。現在は空き家だが、植木屋が定期的に庭の世話をしているので、玄関の周囲は木も切られ、雑草もなく、きれいに片付いている。

玄関の前にもう一台、白い箱型のバンが停まっている。

「植木屋が来ているのかしら。」

恭子は車を降りた。ストレートの髪を肩まで垂らした色白の彼女は、黒いパンツスーツ姿で、白いブラウスの襟はリボンになっている。極めて古典的な服装なのだが、これが、不動産仲介業、女性社員の、いわば「制服」なのだ。

黒いパンプスが砂利を踏んで音を立てる。もう一台の車のことをいぶかしく思いながら、彼女は黒い鞄から鍵束を取り出し、鍵のひとつを玄関のドアに差し込む。

この林の中の物件は、前の持ち主が破産した後、競売にかけられ、恭子の勤める明和不動産が買い取り、現在その管理と仲介を引き受けている。買い手が現れ、明日、恭子が客を案内することになっていた。その事前チェックのために、恭子は屋敷を訪れたのだった。

鍵を開けて入ると、空き家であるはずの家に、かすかに料理の匂いがする。ベーコンエッグを焼いた後のような。

「おかしいわ。」

恭子が、玄関のすぐ左のリビングのドアを開けると、細かいチェックのジャケットを着た中年の男と、黒い革ジャンの二十代の男がソファに座っていた。恭子も驚いたが、ふたりの男も驚いたように彼女を見つめている。

「あの、どちら様ですか。この物件を管理している会社の者ですが。」

恭子はできるだけ丁寧に男たちに尋ねる。

「我々でっか、ここの持ち主の許可をもろて、ちょっとの間、この家を使わせてもろうてる者なんですけどね。」

中年の男が関西弁で答える。

「明和不動産の者ですが、この家は私どもの管理物件なんです。だから現在の所有者は私どもの会社です。あなた方のことは何も聞いておりませんが。」

「そらおかしいなあ、ちゃんと話を通してるはずなんやけどねえ。」

「私どもがうかがってないということですから、あなた方のなさっていることは、いわゆる『不法占有』ということになります。申し訳ありませんが、今すぐここを立ち退いていただけませんか。」

そこで、中年男の口調が急に変わった。

「固いこと言いいなさんな。お嬢さん、怒ると可愛い顔に皺が増えるで。」

「あの、このままですと、警察を呼ぶことになりますよ。」

「どうぞどうぞ。」

ソファから立ち上がった若い男がそう言いながら恭子の後ろに回る。

「何をするんです。やめて。」

若い男は恭子の両手を後ろから握って腕を後ろに回す。中年のおとこがすかさず恭子の手に手錠をかけた。

「何てことをするんですか。これって犯罪ですよ。」

「どっちみち、俺たちはもう犯罪者なんや。分かっとんのか。ここは今日中に出て行ってやるよ。けど、まだちょっと準備がいるんや。あんたには、ここで二、三時間待ってもらおか。」

ふたりは抵抗する恭子を、白い壁に囲まれ、白い家具置かれたダイニングキッチンに連れて行った。そこにある木の椅子に彼女を座らせ、手錠を椅子の背もたれに電気のコードで縛りつけた。また彼女の両足首も、コードで椅子の足にくくりつけられる。

「やめなさい。こんなことして、只で済むと思ってんの。あんたたち。」

「大声を出したかったら別に出してもかまへんで。そやけど、道路までは五十メートル以上あるんや。誰にも聞こえへんで。何も、命までくれて言うとるわけやないやないがな。しばらくそこで大人しゅうお座りしててほしいだけや。」

男たちはダイニングキッチンに恭子を残して出て行った。

大声を出そうとした恭子だが、思いとどまった。いくら出しても、男が言ったように、表通りまで声は届かない。同じ会社のメンバーが、彼女の帰りの遅いのに気づいて、見に来てくれるのを待つしかない。

取り乱すまいと覚悟を決めた恭子だが、ひとつ大きな問題があった。彼女は運転しているときから尿意を感じていた。そして、この家に着いたらまず用を済まそうと考えたいたのだ。その尿意が、徐々に限界に近づきつつあった。三十分ほど経ったとき、彼女は叫んだ。

「すみません、ちょっと来て。」

自分を軟禁している犯罪者に「すみません」というのはしゃくだが、この場合、彼らを呼ぶしか方法はない。中年の男が顔を出す。

「どないしたんや、お嬢さん。」

「す、すみません、ト、トイレに行かせてください。お願いですから。」

「おい、お嬢さんを便所に連れて行ってさしあげろ。」

拒否されるかと心配だったが、中年の男はあっさりとオーケーし、後ろに立っている若い男に顎をしゃくった。若い男によって足首のコードが解かれた。

恭子は立ち上がり、廊下に出た。若い男は、廊下の突き当たりにある広いバスルームの中に彼女を連れて行った。白いタイルに囲まれた部屋で、恭子は便器の前に立たされた。尿意は、いよいよ切迫したものになってきている。

「おい、早うお嬢さんのズボンを下ろしてあげんか。」

後ろからついて来ていた中年の男が言う。

「いえ、自分でします。だから、手錠を外してください。」

「姉ちゃん、もう辛抱たまらんのやろ。早うせんと漏らしてしまうで。」

若い男が、便器の前に立つ恭子の前に跪き、スラックスの細いエナメルのベルトを解き、ボタンを外し、ファスナーを下ろした。恭子は叫ぶ。

「嫌ああ、自分でするから。お願い。」

黒いスラックスが足首まで下がった。白いブラウスの下方、黒いパンス越しにベージュのショーツが見える。

「お、お願いです。これ以上はやめてください。自分でしますから。だから手錠をはずして。」

若い男は恭子の言うことを無視して、両手を恭子の腰に伸ばし、パンストとショーツを一緒に膝まで下げた。

「きゃあああ、やめて。」

恭子は、必死で膝を閉じ、中腰になって耐える。

「早う済ませや。おしっこ、我慢してたんやろ。」

いつの間にかすぐ横に来ていた中年の男が、恭子を後ろに押した。恭子はよろけるように便器の上に座り込む。膝と太股は固く閉じられたままだ。フサフサとした黒い毛がそのくぼみに見える。

欲求は羞恥よりも大きかった。恭子の尻の下で、チョロ、チョロと音がした。その音は間もなく、ジャーという音に変わった。数十秒間その音が続いたあと、ポトポトいう音を最後に、止まった。

「おい、お嬢さんのお尻を拭いてさしあげろ。」

と中年男が言った。若い男がトイレットペーパーをカラカラと音を立てながら一メートルほど出し、次にそれを折りたたんでいる。若い男はそのトイレットペーパーを固く閉じられた膝の間に突っ込もうとした。

「やめて、これ以上は絶対嫌。」

「姉ちゃん、『おいど』がビチョビチョやないか。そのままパンツ履いたら、汚れるで。」

そう言って、中年の男は、恭子の背中の手錠を握り、持ち上げた。中腰になった恭子の尻を若い男が、後ろから拭く。

「いやあ、やめて。」

「姉ちゃん、もうちょっと足開げてくれへんと、きれいに拭けへんがな。」

と若い男。中年の男が、恭子の前にしゃがみ、彼女の膝の間に両手を入れ、左右に押し広げる。

「きゃあああ。」

「お嬢さん、若いのにえらい黒ずんどるなあ。ちょっとやりすぎと違うか。」

中年男が、恭子の股の間を覗き込むようにして言った。その間に、若い男が、後ろから恭子の大切な部分をトイレットペーパーで拭う。

「や、め、て。」

恭子の目から涙が滴り落ちる。

 若い男が、使用済のトイレットペーパーを丸めて、便器に投げ込んだ。若い男が前にまわって、ショーツとパンストを上げた。スラックスを引き上げ、元通りにファスナーを上げ、ボタンをかけ、ベルトを締め、おまけに、ご丁寧に、ブラウスの裾をスラックスの中に押し込んでいる。

「ほな、ボチボチ行こか。」

と中年の男が言った。若い男が持ってきた電気のコードで、手錠と便器の後ろの配管を結びつけている。その作業が終わると、ふたりはバスルームを出て行った。彼女は、力なく、再び便器に座り込んだ。窓の外で、車のエンジンが掛けられ、タイヤが砂利を踏んで発車する音が聞こえた。

 

***

 

 三時間後、恭子は同僚の辰野豊によって発見された。バスルームに入って来た辰野に、恭子はこれまであったことを告げた。その間に、辰野は恭子を結びつけていた電気のコードを外した。彼女はひとまず、便器の前からは解放された。しかし、辰野は手錠を外すことはできない。

「とにかく、警察を呼びますから。ちょっとの間、そのままで我慢しててください。」

彼は、携帯を取り出した。

「同僚の一人が空き家のバスルームに監禁されて・・・ええ、どうも犯罪者らしくて・・・それと、手錠を掛けられて、それが外せません・・・住所は・・・」

恭子より二年後に入社した若い辰野は、警察への電話を終え、恭子に向かって言った。

「今すぐ来るって。もう少しの辛抱ですから。」

ふたりはまだ、バスルームの中にいる。

「ねえ、辰野くん、お願いがあるの。」

恭子が言う。

「何ですか、何でも言ってください。」

「トイレがしたいのよ。でも、手が使えないでしょ。だから、辰野くん、下してくれない。」

恭子は、緊張すると下痢をしやすい過敏性腸症候群であった。その日のストレスと緊張は、彼女の腸に、これでもかこれでもかという圧力をかけていたのだ。

「下すって、何を。」

「馬鹿、パンツと下着に決まってるじゃない。お願い、早くして、もう出そうなの。」

恭子の眉間に皺を寄せながら言った。

辰野は、便器の前に立った恭子の前に跪いた。ちょうど、数時間前に若い男がやったように。しかし、慣れていないので、なかなかベルトとボタンが外れない。独身の辰野にとって、恭子はこれまで女性としても、先輩としても、一種の崇拝の対象であった。その女性の着衣を脱がせるという行為に、彼は激しく動揺し、指の震えが止まらない。恭子は、顔に汗の玉を浮かべながら耐えている。

「あああ、何しているのよう。早くう。」

辰野が何とか、スラックスのファスナーを下げるのに成功し、スラックスを膝まで下げたとき、

「早くう、あ、もう無理。」

と恭子が叫んだ。同時に、

「ブリッ、ブチュブチュブチュブチュ」

という音が響いた。恭子は、下着の中が下痢便で満たされるのを感じた。一方、辰野は、ベージュのショーツの下が褐色に染まり、ショーツと足の隙間から黄色い軟便がはみ出て来るのを見た。猛烈な臭いがふたりの鼻をついた。

 そのとき、窓の外に、赤い光が点滅するのが見えた。パトカーが到着したのだ。立ったまま、パンストから黄色い液体を滴らせている恭子と、その前に茫然と跪く辰野のいる部屋に、ふたりの警官が入って来た。警官は、一瞬、辺りに立ち込める悪臭に顔をしかめる。

「何だ、この臭いは。」

辰野が、警官に説明をする。

「この方が被害者なんですが・・・実は、監禁中に・・・ええと、トイレが我慢できなくて・・・下着の中に出されてしまって・・・」

数分後、ふたりの警官はドアチェーンを切断する特殊な器具で、恭子の両手にかけられた手錠を結んでいた鎖を切断するのに成功した。その作業の間、恭子は、下痢便の詰まった下着のまま、耐えていた。

「どうして、どうして、こんな目に遭わないといけないの。」

彼女は、泣きながら、その言葉を繰り返した。

 

両手が自由になり、何とか排泄物の始末を終えた恭子は、上半身は黒いスーツのジャケットのままだが、下半身に白いバスタオルを巻きつけた姿で、パトカーに乗った。

 

 

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